『お前が俺の存在を信じるなら、俺もお前の存在を信じてもいいよ。』 -キャロル「鏡の国のアリス」-
隣国日本がほぼ統一されて早や数年、李氏朝鮮は緊張に包まれていた。揺れ動く情勢の中において安定する国が生まれる…。それはすなわち、その国の海外進出が近いことを意味しているのだ。
日本を隣国に持つ李氏朝鮮は、何時日本が攻めてきてもいいようにすぐさま防備を固めていた。
水軍提督・李舜臣(リ・シュンシン)が組織する沿岸警備隊もその一環である。
名将と名高い提督の下には有望な若者達が集い、その防衛力には大いに期待がかけられていた。
その沿岸警備隊にその人ありと言われた黄星京(ファン・ソンギョン)を世に送りだした成式道場に、一人の少年が入門したのはもう十年以上も前のことだ。その少年から見て、14年年上のファンは、まさに憧れの英雄だった。
やがて時は流れ、彼も多感で血気盛んな年頃に成長する。洪潤星(ホン・ユンスン)といえば、同世代はもとより年長の門下生達にも知られた名前となっていた。道場主・成漢明(ソン・ハンミョン)直々の指導を受けるまでに腕を上げていた彼にとって、幼いころの英雄だったファンは今や追い抜くべき目標と言えた。祖国の為、二度にわたる「救国の剣」探索に抜擢されるほどの実力者であるファンとの手合わせを望むユンスン…。いわゆる若気の至りというやつである。
年長の者は苦笑しながらもそんなユンスンの将来に期待していた。多分に荒々しく感情的ではあるが、彼はまっすぐな心を持つ男だった。
ファンが長旅から戻って来るという知らせが成式道場へ届いた日、ユンスンはとうとうその時が来たと思った。体調は万全、気分も最高だ。今ならファンに自分を認めさせることはおろか、ともすれば彼を超えたことが証明されるかもしれない!
…だが世界をめぐり、大局を見据えていたファンはユンスンの挑戦に応じることことはなかった。
「救国の剣」が見つからなかった以上、隣国の侵略に備えて即刻隊に戻るのは当然のことだったのである。
しかし、ファンに全く相手にされていないと理解したユンスンは不満であった。しばらくはふてくされていた彼だったが、ある日彼の様子を見かねた師の娘・成美那(ソン・ミナ)から一振りの刀を渡される。
「何いつまでもふてくされてるの。これでも見てよく自分を見つめなおしなさい。 …まったく子供なんだから。」
それは成家に代々伝わる一振りの刀で、その刀身をには持つ者の奥底が映ると伝えられる品だった。
その夜、ユンスンは一人、刀身に映る自分の姿を見ながら自分は何をすべきかを考えた。
様々な思い、考えが浮かんでは消える。
確かに祖国の危機において、私闘を優先させるのは愚かだ。ならば…?
…そうだ、あの人が遂に達成できなかった「救国の剣」を探しだして、俺の存在を認めさせてやる。
彼を追い抜くのは国を救ってからだ!
自分の力を示すとともに、祖国の危機をもすくう一石二鳥の考えは大変納得できた。
そうと決めたら、ゆっくりとしてはいられない。即刻彼は荷物をまとめると、師に手紙を残して道場の門をくぐる。四年前ファンが引き分けたと言う琉球の海賊が南航路でヨーロッパへ向かったらしいという噂を聞いていた彼は、迷わず南路を選んでヨーロッパへ向かう。
彼は後に、ソウルエッジが「救国の剣」どころか忌まわしきものであるらしいことに悩みながらも、確実に邪剣に近づいていくことになる。さらに隣国日本が遂に祖国に攻め込んだとの知らせも届く。
…悩んだ末にユンスンは決断するだろう。
ファンに自分を認めさせ、そして祖国を脅かす日本を倒せるなら…。
たとえソウルエッジが邪剣であろうとも構うものか!