『我事において後悔せず』 -宮本武蔵「独行道」-
度重なる倭寇の侵略に苦しめられていた東の大国・明は、民を守り、また国の威信を取り戻すため、英雄の剣と伝えられたソウルエッジの探索にもっとも力を入れた国の一つである。
しかし三度にもわたる捜索隊は、いずれも吉報を持ち帰ることはなかった。第一、第二の捜索隊はついに帰ることは無く、つい先ごろ帰国した第三陣も英雄の剣を見つけることはできなかったのだ。
皇帝の親衛隊から選りすぐった第三陣ですら入手することはかなわなかったという結果は、皇帝を大いに失望させたのである…。
シャンファはその第三陣に参加した一人であった。彼女は代々軍人の柴家に育ち、今は亡き母親から剣の手ほどきを受けていた。やがて母が病死した後もシャンファは腕を磨きつづけ、ついにはその腕を見込まれて皇帝の親衛隊員となる。…そしてソウルエッジ探索の任務に抜擢され、失敗したのである。
皇帝の不興を買った彼女はその後親衛隊の任を解かれ、張り合いの無いヒマな仕事を与えられていた。
柴家の者はその境遇を嘆いたが、彼女はそれで良いと思っていた。
実は四年前、彼女はソウルエッジを目の当たりにしたのだ。だが英雄の剣であるはずのソウルエッジの正体は、人の魂を際限なく喰らう邪剣だったのである。そのような剣を国に持ち帰ったところで災いしか呼ばないであろう。このような邪悪な存在は破壊してしまわなければならない!
そう判断したシャンファは旅を共にした仲間であるキリクとともにソウルエッジと戦い、炎渦巻く異空間で邪剣を破壊することに成功した。しかし、戦いの間不思議な力で彼女を守り、共に戦った母の形見である剣はシャンファ達が異空間から帰還する際に虚空へと失われてしまった。
自らの運命を切り開きなさい─。形見の剣は失われたが、その遺言はシャンファの精神に宿っていた。
彼女は自分の決断が正しかったと確信していたのだ。
ある日、彼女を失望させる事件がおきる。皇帝が自国の辺境に位置するある城を攻撃したのだ。
表向きの理由は反逆を計画していたからだと報じられていたが、ほどなくシャンファにはその真の理由が告げられた。
それは明の諜報部がつかんだ確かな情報だった。かつてソウルエッジ探索第二陣として派遣された男が英雄の剣を持ちながら、かの城に留まって皇帝の元へは帰ろうとしないというのだ。
召喚の使者を出しても彼は応じず、また城主も彼の引渡しに応じない。それはソウルエッジを皇帝に献上するのを拒み、己が物とする意図があるに相違ないと判断された。軍が送られた結果城は落城したが、剣を発見することはできなかったのである。
再びシャンファを召し出した皇帝は、彼女を廃墟となった城へと派遣することにしたのだった。
それは彼女がもっともソウルエッジに近づいたと思われる人間であり、瓦礫の山からソウルエッジを探し出すには彼女の経験と知識が必要だと考えたからに他ならなかった。
確かに自分は邪剣を破壊したのだ。だから、ソウルエッジが戦場となった城にあるはずはなかった。
真実を報告していたならば、今回の戦は起きなかったのかもしれない…。深い悲しみと共に戦場跡へと派遣されたシャンファ。だが彼女は、数少ない生き残りの証言や細かく散り散りになった記録などから確かにソウルエッジの欠片と呼ばれる品がこの地に存在していた事実にたどり着く。
もしも本当に邪剣の欠片だったならば、その邪気に気が付く人間はいたはずだ。そう考えれば欠片を入手した者が、皇帝への献上を躊躇した理由も説明がつく。推測される欠片の大きさからして、城主がそれを欲から手元においておきたいと考えるのは難しかった。すると、やはり欠片は忌まわしき邪剣のそれであったのか…?
破壊したはずのソウルエッジが、今なお災いを起こしているかもしれない…!
もしもそれが事実ならば、その欠片を見つけ出し、形も残らないほど徹底的に砕いてしまわなければならない!
それは邪剣を中途半端に破壊して安心してしまっていた自分が負うべき責任なのだ。
一度決心したシャンファの行動は素早かった。その夜のうちに彼女は一人任務を離れたのである…。