『機会が二度、扉を叩くなどと考えるな』 -シャンフォール「格言と考察」-
かつて愛刀・裂鬼丸と共鳴する邪剣ソウルエッジに興味を持ち、世界を旅したタキ。
彼女は魔物退治を生業とする封魔の忍の一員である。封魔の腕に長けるばかりではなく自らの武具をも打つ彼女は、封魔の忍でも屈指の使い手だった。当時ソウルエッジを握り、邪剣に精神をのっとられた大海賊セルバンテスと対峙し、これを打ち破ったのも、ひとえに彼女の実力によるものだった。
長い旅を終えた彼女は、入手した邪剣の破片を妖刀滅鬼丸に打ち込もうと試みる。だがその結果、滅鬼丸はさらに強い邪気を発しはじめ、最早タキにも扱いかねる程の妖刀と化してしまったのだ。
恩師でもある封魔の首領トキが既に妖刀に魅入られている事実を見抜いたタキは、滅鬼丸をトキに渡すのは危険と判断した。こうして彼女は抜け忍となったのである。
かつての仲間達から追われる身となったタキは、強力な邪気を持つソウルエッジと滅鬼丸をぶつけて相殺するべく再びソウルエッジを追いかけた。しかし彼女がソウルエッジにたどり着く直前に、邪剣の持ち主であったナイトメアは一組の男女の前に敗れ去っていた。
滅鬼丸を手に再び思案するタキ。ソウルエッジ亡き今、いかにこの妖刀を破壊するべきか…。
以前から密かに持っていた、滅鬼丸を使いこなしてみたいという思いが強くなっていく…。
旅の間に多少なりとも滅鬼丸を扱う糸口をつかんでいた彼女は、滅鬼丸を完全に制御するべく精神を鍛える生活に入る。そして極めて短時間ならば滅鬼丸を使役することが可能になったある日、タキのもとに封魔の忍が現れた。彼らはそれまでの追手とは違い、問答無用で襲ってくるわけではなかった。なにやら策を張り、彼女を生け捕ろうとしているようである。しかしタキがそのような罠にかかるわけもなく、彼らは滅鬼丸の前に倒れた。
「首領の命とはいえ、わざわざ異国までご苦労なことだ…。ん…?」
追手の骸を調べていた彼女の手に、一つの金属片が当たる。弱々しいながらも、その金属片が発する邪気はソウルエッジのものに相違なかった。邪剣は完全に消滅したわけではなく、このような欠片に砕け、バラバラになって存在していたのだ。
彼女は瞬時にして今回の追手が彼女の殺害ではなく、あくまで生け捕りをねらっていた理由に思い当たった。トキがソウルエッジの情報を収集しているのだ。おそらくこの欠片のように、いくつもの欠片が里へと運ばれているに違いない。
ソウルエッジを握った人間がどうなるかを彼女は知っていた。もしもトキがソウルエッジを手にしたなら…!
ただでさえ封魔の長として強力な力を持つトキである。ソウルエッジが彼に与える狂気は、トキをこれまでにないぐらい強力な妖怪と変貌させる恐れがあった。
近い将来故郷で起こるであろう災いを見逃せるはずもなく、彼女は日本へと向かう。
再び膨れ上がった邪剣の気配を彼女が察知したのは、その帰国の路の途中であった。
手にした欠片の邪気がわずかに活性化したのが判る。彼女は咄嗟に欠片を封じると、少しだけ考えた。
かつての恩師の手にあるであろう欠片を封じるのが先か、それとも復活したと思われる邪剣本体を封じるのが先か…!
いずれにせよ、時間は限られていた。