『人間は、時には過ちを犯しながらも、足を伸ばして、つまづきながらも前進する。』
-スタインベック「怒りのぶどう」-
武術の修行が盛んなことで知られる真行山臨勝寺。ある夜を境にこの寺は歴史から消え去った…。
邪気に犯され、正気を失った寺人達が互いに殺しあう中、たった一人生き延びた男。
衰弱しきっていた彼は、翌朝一人の老人によって助けられた。
キリクは赤子の頃真行山に捨てられ、臨勝寺に引き取られた孤児であった。物心つく前から武術の修行を日常として育った彼は、特に棍を好んだ。そして16歳になるころには、棍術の奥義伝承者に選ばれる程までの使い手に成長したのである。
臨勝寺には三宝と呼ばれる代々伝わる三つの品があった。棍法の伝承者になるということは、その一つである滅法棍を授かる資格を得ることを意味していた。だが、イヴィルスパームが臨勝寺に降り注いだのは、その皆伝式の前夜のことだった…!
やがて老人の庵で目覚めたキリクの肩には、滅法棍と共に三宝の一つである末法鏡がかかっていた。
末法鏡は、キリクと同じく孤児で彼にとっては姉のような存在であったシャンレンが授かっていたはずの品であった。
イヴィルスパームを浴びて膨れ上がった破壊衝動に流されていたキリクが正気に戻った時、既に彼は末法鏡を身に付けていた。おそらくこの鏡が、邪気を自分から取り除いたのに違いない…。
そして末法鏡を彼にかけたのは、持ち主であるシャンレンしか考えられなかった。
…なのに。なのにキリクは、そのシャンレンを殺してしまったのだ。末法鏡を持っていれば無事だったであろうシャンレン。だが彼女はキリクに鏡を託し、自らは狂気に飲まれて命を落とした。
彼女は何故死を選んでまで自分を生かしたのか。そして愛すべき人々を手にかけてしまった自分は、何のために生きていかなければならないのか…。
自らを責めつづけた彼はやがて、己の業を断ち切ることこそが生き延びた自分にできるただ一つのことだと結論する…。
「全ての元凶は邪剣ソウルエッジ。そしてキリク自身と、力を吸収する性質を持っていた滅法棍はあの夜以来邪気に満たされ、末法鏡によってかろうじて正邪のバランスを保っている。」
キリクが自分で結論を出すのを待っていたかのように、そう彼に継げる老人。この老人こそは、人里を避け隠れて暮らす臨勝寺の武術顧問その人であった。
彼は老人のもとで臨勝寺棍法の奥義と自らの身体と滅法棍に巣くう邪気をコントロールする術を学び、やがて邪剣破壊の旅へ出る。旅先でシャンファ、マキシと出会ったキリクは、旅の末にソウルエッジを持つナイトメアの居城へとたどり着いたが、ナイトメアの配下達に囲まれてしまう。盟友マキシの捨て身の行動によって、際限なく襲いくる敵を振り切ったキリクとシャンファはナイトメアに戦いを挑み、死闘の末シャンファが持つ霊剣ソウルキャリバーの力で邪剣を破壊することに成功した!
末法鏡は激しい戦いの最中、砕けてしまっていた。だが末法鏡がない状態でも、キリクは己の邪気が暴走しないことに気付く。
長い旅の末、彼は自分自身で内なる邪気を抑える術を会得していたのだった…。
…それももう既に4年も前のことだ。
その後、行方知れずとなったマキシの捜索を諦めた二人はそれぞれの道を歩き出した。師の元へ戻り邪気を時間をかけつつも中和・浄化する術を学び更なる高みを目指して修行を続けていたキリク。
だが彼はある日、覚えのある邪気を感知する。それは忘れようもない、忌まわしき邪剣のそれであった。
…未だソウルエッジは存在している!
破壊しただけでは邪剣を滅することができなかった…。力で邪剣を破壊することがかなわぬならば、滅法根に吸収させてしまえないだろうか。善悪を問わず力を吸収する滅法棍の特性を以ってすれば、全ての邪気を自分の監視下におくことができるはずだ。後は時間をかけて邪気を浄化していけば…。
4年たった今でも自らに巣くう邪気を完全に浄化できてはいない事実から、邪剣が持つ巨大な邪気を完全に浄化するには、長い時間を必要とするのは容易に想像できた。
だが生涯かかろうとも自らが手に掛けてしまった人達に償いができるなら…。
答えは決まっていた。