『はじめのうちはごく小さかったのに、やがて家族の誰よりも容易に大きくなる。』 -グリム「隠者のための新聞」-
その男の一生は決して輝かしいものではなかった。若いうちから力に優れ、冒険を夢見た少年が育った村の外で見たものは、厳しい現実だった。村で褒め称えられたその腕は、広い世界においては決して突出しているわけでは無かったのだった。その後、戦乱に荒れた時代を生きた男は、遂に成功への手がかりを掴むことに成功する。
流れの商人が持っていた金属片…。お守りと称されたその金属片を見た彼は有り金を全て使い、商人が持つ全ての金属片を買い取ったのである。
その夜薄暗いランプの明かりの元で彼は入手した破片を眺めつつ、以前旅の剣士から聞いた話を思い出していた…。
全ての武器をも凌ぐ最強の武器、ソウルエッジ。酒場で飲んでいた連中には、誰一人として信じる者がいなかったが彼は違った。剣士の目に何か感じるところがあったのである。彼は剣士の後を追い、詳しい話を聞き出そうとした。最初は剣士も何か情報が得られるかもしれないと思ったのだろう。だが結局彼が何も知らないと判ると、それ以上は語らずに去っていった。
それはたいした話ではなかったのかもしれない。だが、彼の興味をひくには充分だった。彼は彼なりにソウルエッジを追い、世間からは夢見がちな奇人扱いをされながら生きてきたのだった。
…その彼の目の前に今この瞬間、追い求めてきた物がある。彼は妙な確信を以って、この金属片こそがソウルエッジの一部だと信じていた。
それからしばらくして、彼は盗賊に殺されたのである。金属片を大事に扱いすぎた結果、何か高価な品を溜め込んでいるという噂が流れたためであった。もちろん盗賊達の目にかなう品なぞ、彼は持っていなかった。盗賊達はいつもそうするように犠牲者の死体を無造作に谷へ投げ込むと、去っていった。
ところで彼の執着はよほど強かったと見える。谷に捨てられた彼の骸は、死んでなお金属片をしっかりと握り、決してその手から離してはいなかったのだ…。
そして数カ月。彼の手に残った破片が全て、いつのまにか無くなっているのに気が付いた者はいなかった。確実に破片は消えていた。…幾つかの不完全な死体を残して。
ただ何かが這っていったような跡が死者達の脇に残されていたが、それもやがて降り出した雨によって消えてしまった。
…その生物、いや生物かどうかは定かではないが、それは確実に歩いていた。…己の意思で。
それは思考というよりは、本能に近いものだった。
死んだ男の手の中で、その血を吸って一つと成ったその姿。
再び形を成す為に、仲間を求めて彷徨うその姿。
同じ邪気を持つ破片を貪欲に取り込み、確実に成長していくその姿。
出会う者の心の奥に潜む思考を感じ取り、それに合わせて反応するその姿…。
かつてソウルエッジを求めた男が最期に手にした金属片は、まぎれもなく本物であったのだ…!