『怪物の誕生する原因は多数ある。まず第一は神の栄光である。』 -パレ「怪物及び異象について」-
人の怨念を喰らいつづけ、砕けてなお世界を覆わんとしている邪剣ソウルエッジ…。
その力に気づいた神はオリンポスの鍛冶神へパイストスだけではなかった。へパイストスがソウルエッジに危惧の念を抱いたのに対し、純粋にソウルエッジが持つ力に興味を持った神もまた、存在したのだ。戦争を司るアレスにとって、邪剣ソウルエッジの忌まわしき由来や習性は大した問題ではなかったと見える。彼はソウルエッジを手元に置くことを望んだ。
同じオリンポスに属する二人の神の邪剣を巡る思惑は、やがてそれぞれが人間界に介入する結果となったのである。
戦争神が目をとめたのは、彼を「執行者パルギア」としてあがめる砂漠の邪教集団であった。
啓示を受け、ソウルエッジを入手するための使者の用意を命じられた大神官クンペトクーはその秘術を駆使して一体のゴーレムを創り上げる。大神官は彼に強力な呪いを込めた特製の大斧と、アスタロスという名を与えて邪剣探索へと送り出した…。
神が求めるほどの力…。密かにソウルエッジを手にする野望を抱く大神官ではあったが、神を欺くことは容易ではない。大神官は知るよしもなかったが、実はアスタロスには、戦争神に従い戦場を駆ける死の司ケールが宿っていたのだ…!
直接の創造者である大神官の思惑とは裏腹に、戦争神に邪剣を捧げるべく行動するアスタロス。
首尾よく邪剣を探し出したものの、邪険はその半身を失い、その力は激減していた。
このような状態のソウルエッジを主が望むわけがないと判断したアスタロスは、当時の邪剣の持ち主であったナイトメアに従って虐殺を重ね、邪剣の力を高める事に専念していた。
三年も経つころには邪剣の力も回復し、いよいよナイトメアから邪剣を奪う瞬間が近づいてきた…!
しかしアスタロスはその時を待たずして、彼を仲間の仇と追ってきた男との戦いによって破壊されてしまったのである。虐殺を重ねた彼は多くの恨みを受ける身となっていたのだ。
その恨みの中の、たった一つだけが強い復讐心を以って、ナイトメアの居城となっていたオストラインスブルグまでたどり着いたのだった。
だが人の視点から見れば悪と言えど、アスタロスは紛れも無く神の従者であった。
即座に神罰がくだり、地面に亀裂が入る。男は仇討ちの喜びを声にする間もなく、重傷を追ったまま地下へと飲み込まれて消えた…。
アスタロスを破壊した男の仲間達の手により邪剣が砕かれたのは、その直後のことだった。
彼らは仲間の姿を求めてしばらくの間留まっていたが、やがて立ち去り、しばしの静寂が訪れた。
…四年の年月をかけてそれは行われた。
もしもアスタロスが純粋に人の手による存在であったなら、そのような事は起きなかったはずであった。
戦争神の加護、そして死の司ケール。これらの人知を越えた存在と、オストラインスブルグという土地がそれを可能にした。すなわち、かつてナイトメアの虐殺による流血と怨念を吸った周囲の土を媒介にしてアスタロスは再構築されたのだ。
一度破壊されたことにより、生来の弱かった「人の手による」部分が減り、さらには再生時に近くに存在したソウルエッジの破片をいくつか取り込んだ新しい体は、以前にも増して強靭に、そして冷たくそびえ立っていた。
やがて彼は自分のするべきことを思い出したのだろう。傍らに落ちていた懐かしき大斧を拾い上げると、霧の中へ消えていった。