一刀入魂娘
成 美那は最大の危機に瀕していた。父親を殴ってまでしてファンの後を追いかけて、救国の剣ソウルエッジを探しに旅に出たまでは良かったのだが…。これといった収穫もないまま旅先でそのファンと出会い、むりやり家へ連れ帰られた美那は父親、武術の師でもある成 漢明にきびしい修行のやり直しを命じられたのだ。その一方で、今回の一件でますますファンに期待をかけた漢明は、いよいよ美那とファンの縁談を進めはじめたのである。…もっともファンは沿岸防衛隊に志願していて、ここ智異山にはいなかったのだが。決しておとなしくはない性格の上に、旅の自由さを経験した彼女にとって、これでは窮屈でたまらない。そこへ追い打ちとばかりに門下生の一人、金家の息子が求婚してきたのだ!「…もう我慢できないわ。」
気が付いてみれば、その日の内に彼女は再び家を飛び出していた。
さて、家を出てきたもののこれからどうするべきか。彼女としては沿岸防衛隊に参加したいのだが、前に女であるという理由で一度断られている。それに、よく考えてみれば防衛隊にはファンがいる…。それに中心人物である李 瞬臣は父親と旧知の仲である。
…だめだ。すぐに家へ連れ戻されてしまう。とりあえず行く当ても無いし、救国の剣探しの続きでもしてみようかな…。そうだ!救国の剣を手に入れれば沿岸防衛隊に参加させてもらえるかもしれない!
ソウルエッジを手に入れて私の実力を見せてやるんだ。そうすればお父さまもファンも認めてくれるに違いない…!
彼女は早速、西へと向かうのだった。 あれから数カ月経ち、美那はもう西域と呼べる土地に着いていた。ある日、立ち寄った街でソウルエッジを探しているという女戦士の噂を聞いた美那は、もちまえの行動力ですぐに彼女を見つけ出した。その長身の女戦士は、ちょうど街を出ていこうとする所だった。話を聞いてみると、彼女はソウルエッジという邪剣と以前に力を貸してくれた恩人をさがしているというではないか。恩人はともかく、救国の剣を邪剣呼ばわりする彼女の話に対し、美那は納得がいかなかった。
「何も知らないのなら、この件からは手を引くことね。…お嬢ちゃん。」
子供あつかいされた美那は人の目があったにもかかわらず、斬馬刀に手をかけて女戦士に斬りつけた。しかし、相手はひるむどころか、蛇の如くうねる見たことも無い剣を見事にを操って美那を追い詰めていく。美那は未知なる武器を相手によく闘ったが、結果は火を見るより明らかだった。やがて、女戦士はもちろん、珍しい武器の決闘を遠巻きにしていた野次馬達も去って、美那は一人取り残された。辺りはもう薄暗くなり、窓には明かりも見えはじめている。
自分の刃が通用しなかった…。修行を怠ったせいだろうか。
斬馬刀の腕だけで旅を続けてきた美那にとって、この完全敗北は全てを否定されたような衝撃であった。
「なかなか面白い勝負だったな。いいもん見せてもらったぜ。」
不意に声をかけられ、美那は我に返った。声がした方を見ると、すっかり野次馬がいなくなった道端に一人の東洋人がいた。年は三十後半から四十、中国人だろうか。酒を飲んでいて、どうやら酔っているようだ。しかし、美那の目を引いたのは東洋人の手にある棍であった。一見、それは杖にも見えるが、たしかに棍であった。しかも、かなり使い込まれている。
「…あの姉ちゃんの剣。ありゃあ、めったに御目にかかれるもんじゃねぇな。しかしまぁ、これに懲りて無謀な喧嘩を売るのは止めることだな。なぁに、嬢ちゃんならもっと腕は上がるだろうよ。何たって、まだまだ若いんだからな。」
再び子供あつかいされた美那は思わず男に一撃を見舞っていた。だが、斬馬刀は男には届かなかった。男は避けるどころか棍すら使わず、目の前に迫る斬馬刀の柄を掴むことで受け止めてしまったのである。
「…喧嘩は相手は選べと言ったばかりだろう。」
「…もっと腕は上がる、とも言ったわ。棍でもなんでもいいから、私に闘い方を教えてくれる?」
美那にとって、それが精いっぱいの強がりだったのかもしれない。
季節が変わる頃、美那は男の元で棍の修行に励んでいた。ソウルエッジの周りにはあの女戦士のような強者が集まっているに違いない。自分もソウルエッジを望むならば、もっと強くならなければいけない。その一心が彼女を修行に取り組ませていた。はじめは取り合ってくれなかった男も、美那の熱意に負けたのか最近では本格的な棍の技法を教えるようになり、彼女の技量は確実にあがっていった。男は相変わらず酒を放さず、いいかげんな性格だったが、その棍術は由緒正しいものを感じさせた。
修行を初めてからちょうど一年が経った日、いつものように酒を買いにいった男は、ついに帰ってこなかった。
「訳あって俺には棍法を正式に教える資格は無い。お前は棍法を極める必要は無いし、既に大刀術と棍術を組み合わせた独自の技術がある。…もう俺が教える事はねぇよ。自分の運命は自分で切り開きな。孔」
美那がその書き置きを見つけたのは夜もふけてからだった。
…てな事がここへ来る前に会ったわけだ。いや、彼女の事を思い出してな。年格好が同じだったんだよ…。
まぁ…成り行きでその小娘に棍術を教えちまったが、のみ込みの早いこと早いこと。たった一年で様になっちまいやがった。思ったことはすぐに口に出す娘でな。…おまえもあいつみたいにもう少し自分に素直になった方がいいぞ。なあ、ファン大隊長さんよ。」
いつものように酒を飲みながら、沿岸防衛隊に来たばかりの棍術使い、孔は目の前にいるファンに自分の昔話をしていた。琉球の海賊船を深追いしすぎて部下を失ったという数日前の失敗で、すっかりふさぎ込んでいたファンは、何気にそれを聞き流していたが、孔が棍を教えたという娘の件まで話が進んだとき、ハッとして話に聞き入った。
似ている…。まさか!
「失礼します。ファン大隊長、李 瞬臣様がお呼びです。」
不意に部下が部屋の外から声をかける。返事をして立ち上がったファンは美那の事を考えるのを無理にやめ、真っすぐに沿岸防衛隊司令、李 瞬臣の部屋へと向かうのだった。
…オレには沿岸防衛隊の仕事がある。
自分にそう言い聞かせながら。
- 名前:成 美那(ソン・ミナ)
- 使用武器:先祖伝来の斬馬刀
- 武器名:紅雷
- 流派:成家式大刀術+
- 真行山臨勝寺棍法
- 年齢:19歳
- 生年月日:11月3日
- 家族構成:父・成漢明 母、弟共に病死
- 出身地:智異山/李氏朝鮮
- 身長:162cm
- 体重:48kg
- 血液型:A型